インタビュー

Ostle作者・Masao Fukase氏に聞く「ボードゲーム作りの原点」

インディーズゲームレーベル「雅ゲームス」代表で、ボードゲーム『キツネのいたずら』や『Ostle(オストル)』の作者であるMasao Fukaseさん。2017年にドイツで開催された世界最大のアナログゲームイベント「エッセンシュピール」にも出展。そんな国内外で活躍する新進気鋭のボードゲーム制作者Masao Fukaseさんに話を聞きました。

「面白い!もう一回!」そんなゲームを作りたい

――Fukaseさんがボードゲームにハマったきっかけはなんですか?

『ドミニオン』(※1)ですね。大学1・2年生のときに初めて遊んで、全員フラットな状態でカードゲームができるというシステムがすごいなって思ったんです。もともとポケモンカードのようなトレーディングカードゲーム(※以下TCG)はやっていたんですけど、これは本当にすごいなって思いました。

――ドミニオンなんですね! 私も初めてプレイしたときは驚きました。国内のゲームではどうでしょう?

『犯人は踊る』(※2)ですね。8人まで遊べるゲームなんですけど、ボードゲーム初心者がやったら100%「面白い!」って言うゲームなんですよ。これは本当に衝撃でした。遊んだ人が全員で「絵柄が可愛い! 面白い!」って感想を言い合ったり、写真を撮ったりして、遊んだあとの余韻も楽しめるゲームだったんですよね。正直、僕は「すごい」と思いつつも嫉妬しました。

――え、嫉妬ですか!?

そのときはまだゲームを作ってはいなかったんですけど、もともとモノ作りが好きだったこともあって「こんなにすごいゲームがあるんだ」って思って嫉妬していましたね。『犯人は踊る』はボードゲームを触るときにいつも頭の中にありました。ひとつの目標です。あと日本人にとって人気があるゲームということも衝撃的でした。

――日本人にとって人気があるとは、どういうことですか?

はい。『ドミニオン』って海外でも人気があって、日本人の中だとTCGを遊ぶようなコアなゲーマーさんがやっぱり好きなんですよね。それに対して『犯人は踊る』って、子どもから高齢の方、ゲームであまり遊ばない女性が初めましての状態でプレイしても、みんなが「面白い」と言えるゲームなんです。それに絵柄も日本人向けで可愛いし、システムも日本人好みになっている。これは本当にすごいなって思いました。

――たしかに女の子に勧めやすいゲームですよね! ボードゲームカフェなどでも、女の子が楽しんでいる姿をよく見ます。

そうなんです。女性に好きって言われるゲームってすごいなと思ったんですよ。『犯人は踊る』は女性に人気があるんです。多人数向けパーティーゲームって海外で作られたものが多いじゃないですか。その中でも国内で作られた『犯人は踊る』が常に人気なのってすごいですよね。ずっと自分の頭の中にあるので、いつも睨んでしまいます(笑)。

――そんなに意識するくらい『犯人は踊る』から影響を受けたんですね!

僕、初めてボードゲームで遊ぶ方には絶対に『犯人は踊る』を勧めています。紹介すると、みんな初めは「何これ?」って首をかしげているんですけど、いざ遊ぶと「何これ面白い!」って言ってくれる。そういう瞬間がいいんですよね。僕はそれを見て「こういうゲームを作りたい」と思いました。

――そのゲームをプレイした人が「面白い! もう一回!」と言う理由って何だと思いますか?

初めて会った人同士でも、共通の体験を通して会話が生まれるからだと思います。「さっき犯人なすりつけましたよね?」みたいな(笑)。
さっきまで知らない人同士だったのにゲームの話をして盛り上がれる、それがコミュニケーションの材料になるんですよね。ゲームが終わっても会話が続くので、その場の空気がよくなるんですよ。

知らない人ともすぐに仲良くなれるのが、ボードゲームの魅力

――『犯人は踊る』の衝撃を経て、すぐにボードゲームを作ろうと思ったんですか?

すぐには作らなかったですね。しばらくはずっと遊ぶ側でした。作りたいとは思っていたんですが、作り方もわからなかったので。それよりも最初は知らない人とも仲良くなれるボードゲームの体験が刺激的だったので、ゲームを買い集めたりして、友達同士はもちろん会社でも遊ぶことが多かったですね。

――え、会社でも!?

はい。もちろん昼休みなどの休憩時間ですが(笑)。会社の同僚や、仲のいい取引先さんと遊んだりもしました。仕事関係の人とも仲良くなれるのがボードゲームの魅力だと思います。

――仕事もスムーズに進みそうですね! Fukaseさんはスマホでプレイできるソーシャルゲームの会社に勤務されていますが、いわゆるスマホゲームとボードゲームの違いってなんだと思いますか?

相手と対面しているかどうか、というところだと思います。ビデオゲームをするときって、画面を見ちゃいますよね。そのときに集中しているのは、画面の情報と音なので。

――たしかに、集中する対象が違いますよね。

そうです。ボードゲームの場合も、自分の手札や盤面を見てどうしたら勝てるかを考えますけど、勝つべき相手は「目の前にいる人」。相手の手元や状況、顔色を確認して「どうやったら勝てるかな?」「どうやってプレイするかな?」と考えますよね。つまり、人を見る必要性があるんですよ。人を見て「この人こういうことをするんだ」と気づいたりするんです。

――たしかにボードゲームは相手のことをよく見ますよね。相手の表情とか発言とか。

そうなんです。その人の性格がわかるので、終わったあとに「〇〇さんってやさしいですね」とか「けっこうやらしいプレイしてきますよね」とか、そういう話ができるんですよ。それがボードゲームのいいところですよね。相手の行動を自然に見て、性格を知ることができるのが、ビデオゲームやスマホゲームとの大きな違いだと思います。

俺、ボードゲーム作っていていいんだ

――昨年、Fukaseさんの処女作『キツネのいたずら』をドイツのボードゲームの祭典・エッセンシュピールに出展されていましたが、もともと目標にされていたんですか?

そうですね。ドイツはやっぱり目指したいと思っていました。ボードゲームにとってのドイツって、映画にとってのハリウッドなんですよ。なので、世界に打って出ようというのはドイツに行くことなのかなって。

――ボードゲームの本場・ドイツのエッセンシュピールは具体的にどんなイベントでしたか?

イメージとしては東京モーターショーとか東京ゲームショウみたいな感じです。世界各地からボードゲームのメーカーが集まって、新作を発売したりするイベントですね。4日間で18万人くらい来るみたいです。

――18万人も! すごいですね!

そうですね。ただ、エッセンシュピールってすごく落ち着いているんですよ。人混みって見るだけで気疲れしますけど、それがあまりないんです。みんなゆったりしていて。なぜそんな雰囲気なのか明確な理由はわからないですけど、安心感を感じましたね。

――その安心感はどこから来るんだと思いますか?

一番は、ゲームの在庫が潤沢にあるんだと思います。日本の東京ゲームショウの場合は、試しに遊ぼうとしたら試遊台の数が限られているので急ぐんですよね。でも『エッセンシュピール』はいつ目当てのブースに行っても商品があることが多いから、「今買わなくてもいいや」みたいな雰囲気があるんですよ。もちろん売り切れている商品も一部あるんですけど。たとえば、いま日本でも発売されて人気の『アズール』というゲームが、ちょうど去年のエッセンシュピールでお披露目だったんです。潤沢に在庫があったので最終日でも買えました。

――最新の人気作が最終日まで買えちゃうのはすごいですね……。そんなに在庫が?

たしか在庫が3,000個くらいあった気がします。だから、「いま急いで遊ばなくてもあとでゆっくり遊べる」と思える空気なんですよね。むしろ「この会場で買わなくてもいつか遊べるよね」という感覚すらありました。それって多分ドイツが、カルチャーとしてボードゲームを楽しんでいるからかな、って気がしたんです。

――決して貴重なものではなく、当たり前のカルチャーとしてボードゲームが根付いているからこそ、ゆっくりと楽しんでいる空気が流れていたんですね。ほかに、Fukaseさんがボードゲーム大国のドイツに行って感じたことはありますか?

僕がそもそもドイツに行ってやりたかったのは、自分の作品を売りたいというのもあったんですけど、それ以上に「ドイツにおけるボードゲームとは何か」を見て感じたかったんです。そこで気づいたのは「俺、ボードゲーム作っていていいんだ」ということでした。

――「作っていていい」ですか? 具体的にはどういうことなんでしょう?

はい。日本でボードゲームを作っていると、まわりは「よくやるね」という反応をされるんですよ。応援してくれる人も多いんですけど、「やっぱり大変だと思うよ」って言われるんですよね。どっちかっていうとネガティブなイメージを持たれたりとか、厳しい意見を言ってくださる方も多くて。そこで心が削られることもあるんです。それでもやりたいからがんばるんですが、たまに「自分のやってることは本当にいいことなのかな」って思っちゃうんですよ。

――日本だとネガティブなイメージを持たれることもあるんですね……。

そうなんです。でも、ドイツで自作のゲームを買ってくれた人に「僕が作ったんです」って言うと「本当に!? すごいじゃないか!」って反応してくれるんですよ! ほかにも「サインちょうだい」「一緒に写真撮ってくれ」って言ってくれたりして、どれだけ励みになることか。「僕がこのボードゲームを作っています」の一言で、みんなが「すごいね」と絶賛してくれる。誰も「大変だね」なんて言わなくて、「お前はすごい奴だ」って扱いで。実際にゲームを買ってくれた人に、「今度一緒にビール飲もうぜ」と誘ってもらえたこともありました。本当にそれがすごくうれしくて。

――人気者じゃないですか!

しかも、みんな会場のいたるところで、ボードゲームで遊んでいるんです。おばあちゃんも、子どもも、家族4人で2時間級のゲームで遊んでいる光景も目にしました。全員がボードゲームの文化を受け入れて、楽しんでいる。その結果、笑っているんですよ。「あ、ボードゲームってこういうことなんだ。自分がやってることは間違ってないんだ。しかもみんながすごいねって言ってくれるなんて」と感じました。この経験が本当にうれしかったです。

――日本ではなかなか見ない光景ですね……。そんなドイツでの経験を経て、帰国後に変わったことはありましたか?

はい。日本に帰ったときに「がんばろう!」と思いました。ちょうどそのとき『Ostle(オストル)』(※3)というボードゲームを作っている途中だったんです。制作コストの面で行き詰まっていたので、その年の12月のゲームマーケットで売るのは諦めかけていたんですけど、ドイツに行って「これは売らなあかんわ」と思って、エンジンをかけて完成させました。おかげで、たくさんの方によろこんでもらえたので、ボードゲームを作ることって、結果的に人同士のコミュニケーションとか、笑顔に繋がるものなんだなって、エッセンシュピールに教えてもらいました。

(撮影:高城葵)

楽しんじゃえばそれでゲーム

――最後に「ボードゲームを作りたいけど、自信がない。うまくできるかわからない」という人に向けてメッセージを頂けますか?

「一度作ったらやる気ひとつでドイツにも行ける」「作っちゃえば、こっち側に来れるよ」というところかなぁ。最初は気負わず作ればいいと思うんです。まずは作って遊んでみる。コピー用紙を切って貼って遊んでみて、よかったね、つまんなかったねって言い合う。それってもうゲームを作っていることになるんですよ。印刷して売るだけがゲームを作ることじゃないんです。

――まずは気負わず作ってみると?

そうです。最初に僕が『Ostle』を作ったときも、ホワイトボードに描いて遊んでみようか、という流れでできちゃったんです。だからゲームを作るというのは、カードを印刷することでも、デザインすることでも、売ることでもなくて、ルールを作って一緒に遊ぶこと。じゃんけんでもゲームですし、言ってしまえばサイコロを積むのもゲームなんです。

――たしかにそうですね! 僕でもゲームを作れるような気がしてきました。

だからゲームを作るときは、自分が知っているゲームをいったん忘れて、身のまわりにある紙や棒で遊んでみて、あとからルールとして整備すればいいと思うんですよ。それでみんなが楽しむことができたら、僕は「ゲームを作った」と言っていいと思います。

取材を終えて

一見難しそうに見えるボードゲーム制作ですが、「楽しんじゃえばそれがゲーム」というFukase氏の言葉は、これからボードゲーム制作を志す人にとって大きな励みになるのではないでしょうか。なによりFukase氏自身がボードゲーム制作を心から楽しんでいる様子が印象的でした。

 

Masao Fukase
ソーシャルゲーム会社でエンジニアとして勤務する傍ら、インディーズゲームレーベル「雅ゲームス」を主宰。『キツネのいたずら』『Ostle』を発表し、国内外で高い評価を得る。『Ostle』はクラウドファンディングにて、開始1時間で目標金額を達成した。
雅ゲームズTwitterアカウント:@MiyabiGames

 

(※1)『ドミニオン』……2008年にアメリカで発売されたデッキ構築型のボードゲーム。その独自のシステムはボードゲーム業界に一大センセーションを巻き起こした。ドイツ年間ゲーム大賞受賞作品。

(※2)『犯人は踊る』……2013年に日本の鍋野企画が発表した、犯人カードの持ち主を当てる推理カードゲーム。現在に至るまで高い人気を誇る。

(※3)『Ostle』……2017年にFukase氏が発表したアブストラクトゲーム。2017年秋のゲームマーケットでは即完売するほどの人気。

 

(取材:篠田築、文・写真:清水正太郎)

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shimizu

shimizu

weepleの編集長。東京・江古田にあるボードゲームカフェ「goonie cafe」のオーナー。アナログゲーム勉強中。好きなボードゲームは、ラミーキューブ。